理論と根拠
土台にしている考え方
おやこ気質アトラスは、子どもの気質の研究と、そこから生まれた「適合のよさ」という考え方を土台にしています。
このページでは、研究でわかっていることと、この診断が独自に決めたことを、分けて書きます。独自に決めたことは「この診断では」の囲みにまとめました。研究の出典は、ページの最後にあります。
気質とは
同じ家で、同じように育てても、きょうだいで違う。初めての公園で、すぐ走り出す子もいれば、親のそばでしばらく眺めている子もいる。服のタグをまったく気にしない子もいれば、毎朝それで泣く子もいる。こうした、生まれつきの反応のしかたの違いを、心理学では「気質」と呼びます。
現代の気質研究の出発点とされる研究を行った精神科医、アレクサンダー・トーマスとステラ・チェスは、気質を、行動の「何を」「どれだけうまく」(能力)や「なぜ」(動機)ではなく、「どのように」にあたるもの、と説明しました[1]。同じ「片づける」でも、言われてすぐ取りかかるか、遊びのきりのいいところまで待つか。気質が表しているのは、この「どのように」の違いです。
発達心理学者のメアリー・ロスバートは、気質を「反応のしやすさと、自分を調整する力の、体質に根ざした個人差」と定義しています[2]。気質は、賢さや能力ではありません。良い気質、悪い気質というものもありません。
気質と性格
気質は変わる
気質は、ある程度は続きますが、固定されてはいません。性格の安定性を調べた152の縦断研究をまとめた分析では、約7年あけて測り直したときの一致の度合いは、子ども時代がいちばん低く、年齢とともに高くなっていました。子どもの気質は、大人の性格より変わりやすいことも示されています[5]。
- 子ども時代
- .31
- 大学生のころ
- .54
- 30歳ごろ
- .64
- 50〜70歳
- .74
適合のよさ
1956年、トーマスとチェスは、ニューヨークで133人の子どもを乳児期から追いかける研究を始めました。のちに「ニューヨーク縦断研究」と呼ばれ、子どもたちが大人になるまで続きます。ふたりは、親への詳しい聞き取りから、子どもの気質を9つの面で記述しました[1]。
- 活動水準
- どれくらい体を動かすか
- 周期性
- 眠る・食べるのリズムの規則正しさ
- 接近・回避
- 初めてのものに近づくか、離れるか
- 順応性
- 変化にどれくらい早く慣れるか
- 反応の閾値
- どれくらいの刺激で反応するか
- 反応の強さ
- 泣く・笑うなどの反応の大きさ
- 気分の質
- 機嫌のよい時間と、そうでない時間の割合
- 気の散りやすさ
- 周りの刺激で、していることが途切れるか
- 注意の範囲と持続性
- ひとつのことを続ける長さと、粘り強さ
追いかけてわかったのは、似た気質の子でも、その後の育ち方はさまざまだということでした。ふたりは、育ち方を分けるのは気質そのものより、周りの期待や求めることが、その子の気質に合っているかどうかだと考え、これを「適合のよさ(goodness of fit)」と呼びました[1,6]。
たとえば、体を動かしていたい子。狭い部屋で長い時間じっとしていることを求められ続けると、叱られる回数が増え、親も子も消耗します。同じ子でも、毎日外で思いきり動ける時間がある家では、同じ気質が「元気のよさ」として受け止められます。気質は同じでも、周りとの組み合わせで、毎日の手ざわりが変わります。
その後の研究から
同じ関わり方でも、子どもの気質によって、子どもへの影響の大きさが違うことがわかってきました。84の研究をまとめた分析では、研究で「難しい気質」と呼ばれてきた、泣きやすく、なだめにくい子ほど、否定的な関わりの影響を受けやすい一方で、肯定的な関わりからも多くを得ていました[7]。良くも悪くも、環境の影響を受けやすい子がいる、という見方です[8]。ただし、気質のどの面を見るかや、気質を測った時期によって、結果は分かれています。
また、影響は親から子への一方向ではありません。子どもの気質が親の関わり方を引き出し、その関わり方がまた子どもに返ってくる、という双方向の影響も報告されています[9]。うまくいかない日が続くのは、親のやり方だけのせいではありません。
親の気質も見る理由
子どもにとって、いちばん大きな「周り」は親です。そして、親にも気質があります。
親の性格と、子への関わり方を調べた30の研究(5,853組の親子)をまとめた分析では、両者のあいだに、小さいながら一貫した関連が見られました。著者たちは、性格を、子育てに使える「内側の資源」と表現しています[10]。
切り替えに時間がかかる子には、「終わりを予告して、待つ」がよく勧められます。けれど、待つことが苦手な親が、毎回それを我慢でやろうとすると、続きません。待つあいだに自分の用事を済ませる、と形を変えれば続けられます。段取りの得意な親なら、遊び始める前に、終わりを一緒に決めておくほうが合うかもしれません。同じ子への助言でも、親によって、続けられる形は違います。
4つの軸と、研究との対応
子どもと大人を、同じ4つの軸でそろえています。子どもは気質の研究から[11]、大人は性格の研究(ビッグファイブ)から[12]、近い次元を選びました。最初の3つは、研究の主要な次元に対応します。4つ目は、この診断が足したものです。
エネルギー
- 子ども
- 動 ↔ 静
- 大人
- 外で発散 ↔ 内で充電
研究で近いもの
- 子ども:外向性・高潮性(ロスバートの3つのまとまりの一つ)、活動水準と接近・回避(トーマスとチェス)
- 子ども:見慣れないものの前で立ち止まり、様子を見る傾向(行動の抑制)[13]
- 大人:外向性
この診断では
静の側を「臆病」「引っ込み思案」とは書きません。様子を見てから動く慎重さと、静かな時間で元気を取り戻す性質として書きます。
感じ方
- 子ども
- 敏感 ↔ おおらか
- 大人
- 敏感 ↔ おおらか
研究で近いもの
- 子ども:否定的情動性(ロスバートの3つのまとまりの一つ)、知覚の敏感さ(同じ質問紙の尺度の一つ)、反応の閾値と反応の強さ(トーマスとチェス)
- 刺激を深く受け取る傾向を「感覚処理感受性」と呼ぶ研究もあります[14]
- 大人:神経症傾向(研究上の名前で、気持ちの揺れやすさを指します。病気のことではありません)
この診断では
「HSC(ひといちばい敏感な子)」という言葉が広まっていますが、医学的な診断名ではないため、使いません。敏感さは、小さな変化によく気づく力としても書きます。
進め方
- 子ども
- こだわり ↔ 切り替え
- 大人
- 段取りと徹底 ↔ 柔軟とその場判断
研究で近いもの
- 子ども:注意の範囲と持続性、順応性(トーマスとチェス)、注意の集中(ロスバートの「エフォートフル・コントロール」のまとまりに入る尺度)
- 大人:誠実性
この診断では
ここでいう「こだわり」は、ひとつのことに長く向かう粘り強さのことです。発達の特性を指す言葉としては使っていません。子どもの軸は、エフォートフル・コントロール全体より狭く、集中の続き方と、切り替えだけを見ています。
関心の向き
- 子ども
- ヒト ↔ モノ
- 大人
- ヒト ↔ モノ
この診断では
気質研究の主要な次元ではありません。遊び、習い事、友だち関係という、親の悩みに直結するので、この診断が足しました。研究の裏づけは、ほかの3つの軸より薄いと考えてください。
ビッグファイブのうち、開放性と協調性は使っていません。協調性は、子どもに当てはめると「優しい子/そうでない子」という評価になりやすいためです。開放性は、軸を4つに絞るために外しました。
16のタイプと、MBTIとの違い
4つの軸をそれぞれ2つの向きに分けると、16の組み合わせになります。エネルギーと関心の向きで4つのグループ(広場・野原・窓辺・書斎)に分かれ、感じ方と進め方で、それぞれ4つのタイプになります。
ただし、研究で扱う気質は、どれも「ある・なし」ではなく、程度の違いです。タイプは、続いているものに入れた区切りで、真ん中に近い子は、どちらの面も見せます。そのため結果では、軸ごとに「はっきり」「やや」を出し、気質の地図に位置を示しています。
タイプの名前(団長、職人など)は、この診断が付けた呼び名で、研究の用語ではありません。
MBTIとの違い
16という数から、MBTIを思い浮かべる方も多いと思います。MBTIは、ユングのタイプの理論をもとに作られた、大人が自分について答える質問紙です。この診断は、子どもの観察から積み上がってきた気質の研究をもとにしていて、出発点が違います。
中身は、一部が重なります。MBTIの4つの指標は、大人の性格研究(ビッグファイブ)の4つの次元に対応する、という研究があります[17]。それにならって、この診断の軸と並べると、次のようになります。
- エネルギー(動/静)MBTI:E/I(外向・内向)
- ほぼ同じ向き
- 進め方(こだわり/切り替え)MBTI:J/P(判断・知覚)
- 近い。大人の「段取りと徹底/柔軟とその場判断」とは、特に近い
- 関心の向き(ヒト/モノ)MBTI:T/F(思考・感情)
- 似ているが、別のもの。T/Fは、判断のよりどころが理屈か気持ちか。こちらは、関心が人と物のどちらに向かうか
- 感じ方(敏感/おおらか)MBTI:対応する指標なし
- MBTIにない軸。ビッグファイブの神経症傾向にあたる
- この診断にはないMBTI:S/N(感覚・直観)
- この診断では使っていない。ビッグファイブの開放性にあたる
4つの軸のうち、2つはMBTIとほぼ同じ向きで、1つは似ていても別のもの、1つはMBTIにない軸です。MBTIにない「感じ方」は、服のタグ、大きな音、叱られたあとの引きずり方といった、子育ての困りごとに直結する軸でもあります。
もうひとつの違いは、型の扱いです。先の研究では、人がはっきり2つの型に分かれるという見方は支持されず、MBTIが実際に測っているのは、連続した4つの次元だとされました[17]。5週間あけて受け直すと、半数の人が少なくとも1つの指標で別の判定になった、という報告もあります[18]。真ん中に近い人は、少しの違いで判定がひっくり返るためです。この診断が、タイプの名前だけでなく、軸ごとの「はっきり」「やや」と、地図の上の位置を出しているのは、この問題を避けるためです。
MBTI and Myers-Briggs Type Indicator are registered trademarks of the Myers & Briggs Foundation in the United States and other countries.
設問の作り方と判定
設問は、すべて独自に作りました
子どもの気質を測る研究用の質問紙に、たとえばロスバートたちのCBQがあります。3〜7歳の子について親が答える質問紙で、15の特性を測り、それらが「外向性・高潮性」「否定的情動性」「エフォートフル・コントロール」の3つのまとまりに分かれます。日本や中国の子どもでも、同じ3つのまとまりが見られています[11]。
こうした質問紙は、研究の目的で使うことを前提に公開されています。この診断では設問文を使わず、測る考え方だけを借りて、設問をすべて独自に作りました。
子どもの設問(32問)
- 各軸8問。親が、最近半年くらいの様子で答えます。
- 「初めての公園に着くと」「服のタグや靴下の縫い目」のように、家で見る場面で聞きます。
- 各軸の半分は、「あてはまる」が反対の向きを指す設問です。なんでも「あてはまる」と答えてしまう癖の影響を減らすためです。
- 「わからない・見たことがない」を選べます。見たことのない場面を推測で答えると、結果がぶれるためです。1つの軸で6問以上の答えがあれば判定します。
子どもの気質について親が答える方法は、研究でも広く使われています。CBQも、親が答える質問紙です。
親の設問(24問)
各軸6問で、半分は逆向きの設問です。仕事のときではなく、家で過ごすときの自分について答えてもらいます。この診断が出すのは家で子どもと関わるときの関わり方で、同じ人でも、仕事と家では違う面が出ることがあるためです。こうありたい親の姿で答えないよう、実際にそうなりやすいほうを選んでもらいます。
判定
逆向きの設問を反転させ、軸ごとに平均を出します。いまは5段階の真ん中(3)を分かれ目にし、そこから0.5以内を「やや」としています。
公開前の調査(準備中)
公開の前に、アンケート調査で多くの親に答えてもらい、次のことを確かめます。結果は、このページに載せます。
- 同じ軸の設問が、そろって同じものを測っているか
- 4つの軸が、互いに別のものを測っているか
- 実際の回答がどう分布しているか。分かれ目は、実際の回答の真ん中に合わせて決め直します
この診断でわからないこと
- 医療や発達の診断ではありません。発達障害の可能性を調べるものでもなく、そう見える設問は入れていません。
- 能力や才能、将来の職業や成績はわかりません。
- 親が答えるので、親の見方が入ります。家と園で様子が違う子もいます。結果が実感と違うときは、実感のほうを大事にしてください。
- 気質は、成長や環境とともに変わります。
- 研究は、考え方の土台として借りています。研究が、この診断の正しさを保証しているわけではありません。
参考文献
- 1
Thomas, A., & Chess, S. (1977). Temperament and development. Brunner/Mazel.
ニューヨーク縦断研究、気質の9つの面、適合のよさ
- 2
Rothbart, M. K., & Bates, J. E. (2006). Temperament. In N. Eisenberg (Ed.), Handbook of child psychology: Vol. 3 (6th ed.). Wiley. doi:10.1002/9780470147658.chpsy0303
気質の定義
- 3
Rothbart, M. K., Ahadi, S. A., & Evans, D. E. (2000). Temperament and personality: Origins and outcomes. Journal of Personality and Social Psychology, 78(1), 122–135. doi:10.1037/0022-3514.78.1.122
子どもの気質と、大人の性格(ビッグファイブ)のつながり
- 4
Shiner, R., & Caspi, A. (2003). Personality differences in childhood and adolescence: Measurement, development, and consequences. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 44(1), 2–32. doi:10.1111/1469-7610.00101
子どもの気質と、大人の性格のつながり
- 5
Roberts, B. W., & DelVecchio, W. F. (2000). The rank-order consistency of personality traits from childhood to old age: A quantitative review of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 126(1), 3–25. doi:10.1037/0033-2909.126.1.3
気質や性格が、年齢とともに安定していくこと
- 6
Chess, S., & Thomas, A. (1999). Goodness of fit: Clinical applications from infancy through adult life. Brunner/Mazel.
適合のよさ
- 7
Slagt, M., Dubas, J. S., Deković, M., & van Aken, M. A. G. (2016). Differences in sensitivity to parenting depending on child temperament: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 142(10), 1068–1110. doi:10.1037/bul0000061
同じ関わり方でも、気質によって影響の大きさが違うこと
- 8
Belsky, J., & Pluess, M. (2009). Beyond diathesis stress: Differential susceptibility to environmental influences. Psychological Bulletin, 135(6), 885–908. doi:10.1037/a0017376
良くも悪くも、環境の影響を受けやすい子がいること
- 9
Kiff, C. J., Lengua, L. J., & Zalewski, M. (2011). Nature and nurturing: Parenting in the context of child temperament. Clinical Child and Family Psychology Review, 14(3), 251–301. doi:10.1007/s10567-011-0093-4
親の関わり方と子どもの気質が、互いに影響し合うこと
- 10
Prinzie, P., Stams, G. J. J. M., Deković, M., Reijntjes, A. H. A., & Belsky, J. (2009). The relations between parents' Big Five personality factors and parenting: A meta-analytic review. Journal of Personality and Social Psychology, 97(2), 351–362. doi:10.1037/a0015823
親の性格と、子への関わり方の関連
- 11
Rothbart, M. K., Ahadi, S. A., Hershey, K. L., & Fisher, P. (2001). Investigations of temperament at three to seven years: The Children's Behavior Questionnaire. Child Development, 72(5), 1394–1408. doi:10.1111/1467-8624.00355
3〜7歳の気質の質問紙(CBQ)と、気質の3つのまとまり
- 12
Goldberg, L. R. (1990). An alternative "description of personality": The Big-Five factor structure. Journal of Personality and Social Psychology, 59(6), 1216–1229. doi:10.1037/0022-3514.59.6.1216
大人の性格の5つの次元(ビッグファイブ)
- 13
Kagan, J., Reznick, J. S., & Snidman, N. (1988). Biological bases of childhood shyness. Science, 240(4849), 167–171. doi:10.1126/science.3353713
見慣れないものの前で、様子を見る傾向(行動の抑制)
- 14
Aron, E. N., & Aron, A. (1997). Sensory-processing sensitivity and its relation to introversion and emotionality. Journal of Personality and Social Psychology, 73(2), 345–368. doi:10.1037/0022-3514.73.2.345
刺激を深く受け取る傾向(感覚処理感受性)
- 15
Prediger, D. J. (1982). Dimensions underlying Holland's hexagon: Missing link between interests and occupations?. Journal of Vocational Behavior, 21(3), 259–287. doi:10.1016/0001-8791(82)90036-7
職業興味の「人-もの」の次元
- 16
Graziano, W. G., Habashi, M. M., & Woodcock, A. (2011). Exploring and measuring differences in person–thing orientations. Personality and Individual Differences, 51(1), 28–33. doi:10.1016/j.paid.2011.03.004
人に向かうか、ものに向かうかの個人差
- 17
McCrae, R. R., & Costa, P. T., Jr. (1989). Reinterpreting the Myers-Briggs Type Indicator from the perspective of the five-factor model of personality. Journal of Personality, 57(1), 17–40. doi:10.1111/j.1467-6494.1989.tb00759.x
MBTI の4つの指標と、ビッグファイブの対応。型ではなく連続した次元であること
- 18
Pittenger, D. J. (2005). Cautionary comments regarding the Myers-Briggs Type Indicator. Consulting Psychology Journal: Practice and Research, 57(3), 210–221. doi:10.1037/1065-9293.57.3.210
MBTI を受け直すと判定が変わりやすいこと(McCarley & Carskadon, 1983 の結果を紹介)
この子と、あなたは、 どんな組み合わせだろう。
診断をはじめる無料・登録なし。まず、お子さんについて約5分